こんにちは、大阪府枚方市にある「くずは凛誠法律事務所」です。
交通事故で車両が損傷したとき、基本的には修理することになります。
しかし、被害者に過失がない場合でも、「全損」の場合には時価額(正確には再調達価額)までの賠償となってしまい、修理費を全額賠償してもらえないことがあります。
修理できるのに「全損」となり、再調達価額までの賠償しかしてもらえないのはなぜなのでしょうか。
この記事では、「全損」や時価額の考え方、賠償が認められる買替諸費用などについてご説明します。
この記事のポイント
- 車両の損傷には「全損」と「分損」があり、全損には修理できない「物理的全損」と修理費用が再調達価額を上回ってしまう「経済的全損」がある。
- 全損の場合は再調達価額までしか賠償されない。修理するより同種同等の中古車を購入したほうが安上がりなら買い替えるべきであり、再調達の費用を賠償すれば足りるとされるため。
- 中古車本体価格は「オートガイド自動車価格月報」(通称レッドブック)によるのが基本。古くてレッドブックに記載がない場合は新車価格の10%としたり、中古車販売サイトの販売価格によることもある。
- 全損時には買替諸費用も賠償される。
「全損」と「分損」について
車両の損傷には「全損」と「分損」があります。
全損とは
「全損」とは、修理できない場合をいいます。
ここでいう「修理できない」には、修理技術上の理由により物理的な意味で修理できない「物理的全損」のほか、修理費用が再調達価額(事故前の事故車両の時価額と買替諸費用の合計額)を上回る場合である「経済的全損」も含まれます。
物理的には修理ができる場合でも全損になるのは、経済的な意味で修理ができない経済的全損も「全損」とされるからです。
全損の場合、賠償される金額は原則として再調達価額までとなります。この点はこの記事で詳しく説明します。
分損とは
物理的にも経済的にも修理が可能な場合は「分損」といいます。分損の場合には修理費用が賠償の対象になります。また、車両に評価損が生じたときは評価損の補償も求めることが可能です。
分損というためには、物理的に修理可能であることはもちろん、再調達価額よりも修理費用(+評価損)金額のほうが低いことが必要になります。
評価損については次の記事で詳しく解説していますので合わせてお読みください。
全損の場合にはなぜ再調達価額までの賠償なのか
再調達価額までの賠償とは
分損の場合には、修理費用全額について賠償を受けることができます。一方、全損の場合には再調達価額までしか賠償されません。
物理的全損の場合は買い替えるしかないので分かりやすいと思いますが、物理的には修理できる経済的全損の場合も再調達価額までの賠償になるので注意しましょう。
例えば、車両の時価額が30万円、買替諸費用が5万円、修理する場合の修理費用が80万円である場合、
修理費用80万円 > 再調達価額(時価額+買替諸費用)35万円
となりますので、再調達価額である35万円までしか賠償されないことになります。
被害者が買い替えずに車両を修理することは自由ですが、上記の例で言えば修理費用と再調達価額の差額である45万円は被害者の自己負担となってしまいます。
全損の場合に再調達価額までしか賠償されない理由
全損の場合に再調達価額までしか賠償されないのは、法律上の損害賠償は原状回復、つまり「交通事故前の状態に戻す」ことを目指すものであるところ、原状回復の方法については経済的に最も合理的な方法を選択することになるからです。
修理費用が再調達価額を上回る場合、高額な修理費用をかけるよりも同種同等の中古車を購入するほうが安上がりであり、経済合理的であるといえます。
経済的全損の場合には、修理できるとしても、修理するのではなく買い替えるべきであると判断されるので、買い替えるのに必要な再調達価額までしか賠償されないことになります。
車両の時価額(車両本体価格)の算定方法
再調達価額を算定するには、まず事故車両の時価額を算定する必要があります。
車両の時価額はレッドブックによるのが基本
車両の時価額は、中古車市場における小売価格を基準にして算定します。
実務上は、有限会社オートガイドが毎月または隔月で発行する中古車価格情報専門誌「オートガイド自動車価格月報」(レッドブックとも呼ばれます。)にある小売価格を参照するのが基本的な取扱いとなっています。
レッドブックに記載がない場合
ただし、レッドブックは販売開始から10年以内の車種しか価格を載せていません。そのため、事故車両が販売開始から10年以上経過した車種の場合、レッドブックでは価格が分からないことになります。
この場合、新車販売価格の10%を時価額とすることもあります。また、中古車価格情報サイト(カーセンサー、グーネットなど)の価格情報の平均金額を再調達価額とすることもあります。
なお、レッドブックに記載された小売価格にしろ、新車販売価格の10%にしろ、あくまで参考価格に過ぎません。社会情勢の変化などにより、レッドブックに記載された小売価格や新車販売価格の10%と、実際に同種同等の中古車を購入する際の車両本体価格とが大きく相違する場合には、実際の車両本体価格を賠償すべきであると主張することは十分考えられます。
全損時には買替諸費用も賠償される
経済的全損かどうかを判断する際の再調達価額には、買替諸費用も含まれます。また、全損となった場合には再調達価額の賠償になりますので、車両の時価額(車両本体価格)だけでなく買替諸費用も賠償してもらうことができます。
買替諸費用にはさまざまなものがありますが、下記の費用は賠償請求が認められる可能性があります。
一方で、自動車税や自賠責保険料については、自動車検査証の有効期間の未経過分の還付が受けられるため費用として認められません。
まとめ
この記事では、「全損」や時価額、買替諸費用について解説しました。
物損については考え方が難しいこともあり、独力で相手方や任意保険会社と交渉しても上手くいかないケースも珍しくありません。
納得のいく賠償を受けるためには、弁護士に相談したほうがよいでしょう。
くずは凛誠法律事務所では、物損を含む交通事故全般のご相談を随時お受けしております。初回相談料は無料(又は弁護士費用特約により自己負担なし)で対応しておりますので、お気軽にご相談ください。