弁護士費用特約ってどう役立つの? 弁護士が解説します

交通事故の基礎知識

こんにちは、くずは凛誠法律事務所です。

自動車保険に加入されている方なら、「弁護士費用特約」という言葉を聞いたことがあると思います。保険加入時に勧められて弁護士費用特約を付けたものの、詳細はよく分からないという方もいらっしゃるかもしれません。

この記事では、弁護士費用特約が実際にどう役に立つのか、交通事故事件を受任する弁護士の立場から解説いたします。

弁護士費用特約とは

弁護士費用特約とは、交通事故の被害に遭って弁護士に相談や依頼をしたとき、弁護士に支払う相談料や報酬等の弁護士費用を保険会社が保険金で支払ってくれる特約です。

自動車やバイクが関係している交通事故であれば適用されるので、被害者が自動車やバイクに乗っている場合だけではなく、歩行者として自動車やバイクに衝突されたような事故(加害者が自動車やバイクのケース)でも利用することができます。

保険会社により異なる場合はありますが、多くの弁護士費用特約では下記のような補償内容になっています。

弁護士費用特約の補償内容
  • 法律相談料:最大10万円
    弁護士に依頼する前の法律相談料。弁護士費用特約がない場合、30分5000円(税別)程度かかることが多い。
  • 弁護士費用:最大300万円
    依頼したときにかかる弁護士費用。着手金や成功報酬、実費等が含まれる。

補償金額が十分なのかどうか気になるかもしれませんが、実際には上記の金額を超えることはほとんどありません

法律相談に関しては、一般的には30分から1時間程度あれば弁護士に事情を説明し必要なアドバイスをもらったり、その弁護士に依頼するかどうかを見極めたりすることができます。
数か所の法律事務所に相談しても、法律相談料が合計で10万円を超えることはまずないでしょう。

依頼したときの弁護士費用も、得られる金額が数千万円などの高額にならない限りは300万円を超えることはありません。例えば、交通事故での受傷で最も多いケースである打撲やむち打ち、軽度の骨折などであれば、通常は300万円までで自己負担なく弁護士に依頼できます。

得られるお金がこんなに違う!

交通事故の被害に遭ったとき、加害者や加害者の任意保険会社と示談交渉をすることになります。

示談交渉は弁護士に依頼せずとも被害者自身で対応することもできますが、任意保険会社は示談金額をできる限り低くしようとしてきます。ほとんどの場合、弁護士に依頼するよりも低い金額で示談に応じざるを得ないでしょう。

一方、弁護士に示談交渉を依頼すれば、慰謝料などの大幅な増額が期待できます。さらに、弁護士費用特約があるかどうかで最終的に得られる金額(手元に残る金額)が数十万円~数百万円違ってくることになります。

具体的に、次のようなモデルケースで金額を比べてみましょう。

モデルケース
  • 被害者は自動車を運転し、赤信号のため停止していたところ、加害者の運転する自動車が前方不注視により追突し交通事故が発生した。被害者の過失はゼロ。
  • 被害者は交通事故により首を負傷し(むち打ち)、6か月間病院に通院したが治りきらず、首の痛みや手のしびれなどの症状が残存した。
  • 自賠責保険による後遺障害の等級審査の結果は非該当と判断され等級がつかなかった。保険会社からは後遺障害等級無しを前提に60万円の示談金が提示された。
  • 弁護士に依頼したところ、後遺障害の等級審査に対する異議申立てが認められ、後遺障害等級14級が認定された。保険会社との示談交渉の結果、最終的に260万円の示談金を得た。
  • 実費は1万円かかった。弁護士費用特約がない場合の弁護士費用は、「22万円+増額分の11パーセント(税込)」で計算する。

上記のモデルケースは、金額に多少の差異はありますが実際のケースとしては決して珍しくありません。この記事を書いている弁護士も、類似のケースを何件も扱ったことがあります。

この場合、最終的に手元に残る金額は次のとおりとなります。

費目弁護士に依頼しない弁護士費用特約なし
弁護士に依頼
弁護士費用特約あり
弁護士に依頼
示談金60万円260万円260万円
弁護士費用――44万円0円
実費――1万円0円
手元に残る金額60万円215万円260万円

弁護士費用特約があることで、ない場合とは最終的に手元に残る金額が数十万円も違ってきます。ましてや、弁護士に依頼した場合としなかった場合とでは雲泥の差です。
重傷でない上記のモデルケースでも数十万円の差が出るくらいですが、重傷の事案であれば弁護士費用が数百万円かかることもあります。その場合は最大300万円大きく手元に残すことができるのです。

弁護士費用特約の追加保険料は年間2000円台~3000円台が多いので、例えば10年間弁護士費用特約を付けても追加で負担する保険料は数万円程度です。
 
次の項でも説明しますが、弁護士費用特約は保険に加入している本人のみならず、家族なども適用範囲になっています。
ご本人だけであればともかく、10年の間に家族を含む誰かが交通事故に遭う確率は決して無視できないものです。そのときに数十万円~数百万円の補償が得られることからすれば、非常にメリットが大きい特約だといえるでしょう。
 
なお、弁護士費用特約を利用しても次年度の保険料や保険等級には影響しません
弁護士費用特約があるのに利用しなければ単純に損をすることになります。

適用範囲が広い! 弁護士費用特約は家族も守る

弁護士費用特約を利用するには、交通事故が起きた時点で弁護士費用特約に加入している必要があります

逆に、弁護士費用特約に加入した状態で交通事故に遭い、その後保険を解約したりして弁護士に依頼する時点では弁護士費用特約が付いていないとしても補償が受けられます。
弁護士費用特約が利用できるかどうかの基準時点はあくまで交通事故が発生した時点です。

交通事故に遭ってからこの記事を読み、弁護士費用特約に加入していなかった方は残念に感じているかもしれません。しかし、すぐに諦めてしまうのは早計です。

弁護士費用特約の適用範囲は広く、保険に加入している本人だけではなく家族や契約車両に同乗していた友人なども適用の対象になります。
各保険会社により異なることもありますが、適用範囲は概ね次のようにされています。

弁護士費用特約の適用範囲
  1. 契約者(記名被保険者)本人
  2. 契約者(記名被保険者)の配偶者
  3. 契約者(記名被保険者)またはその配偶者の同居の親族
  4. 契約者(記名被保険者)またはその配偶者の別居の未婚の子
    ※「未婚」とは、一度も結婚したことがないこと。
  5. 契約車両に乗車している者
  6. 上記1~4の者が、契約車両以外の車両を運転していたときに事故があったときは、運転していた車両の所有者及び同乗者
  7. 契約車両の所有者(保険の契約者以外が所有している場合)

このように適用範囲が広いので、例えば次のようなケースなどでも弁護士費用特約が利用できます。

自身の保険以外で弁護士費用特約が利用できる具体例
  • 単身赴任中の夫が弁護士費用を付けていた妻のケース
  • 同居の祖父が弁護士費用特約を付けていたケース
  • 一人暮らしをしている未婚の会社員が事故に遭い、実家に暮らす親が弁護士費用特約を付けていたケース
  • 友人が運転する自動車に乗っていたときに事故に遭い、運転していた友人や友人の家族が弁護士費用特約を付けていたケース

そのため、自身が弁護士費用特約を付けていないからといってすぐに諦めるべきではありません。少なくとも、家族が弁護士費用特約を付けていないかどうかは確認してみる価値があるでしょう
弁護士費用特約が使えるかどうかは、契約している保険会社に問い合わせることが一番早く確実です。

もし交通事故に遭う前に弁護士費用特約を付けるかどうかを悩んでいるのであれば、家族を守るという観点からも付けておくことをおすすめします。

弁護士費用特約は自動車保険の特約になっていることが多いですが、まれに火災保険に付帯されていることもあります。
マンションを借りるときに入った火災保険に弁護士費用特約が付いていたケースもありますので、火災保険も対象に入れて確認するようにしましょう。

交通事故に遭ったときの大きな悩み事が1つ減る

通常、弁護士に依頼することを考えるとき、費用倒れのおそれがあるかどうかは極めて大きなファクターです。費用倒れになってしまうのであれば弁護士への依頼を躊躇してしまいます。

しかし、弁護士費用特約がある場合、弁護士に依頼するかどうかで悩むことはなくなります
弁護士費用特約があればほとんどのケースで実質無料で弁護士に依頼でき、費用倒れを心配する必要がないからです。
弁護士に依頼すれば相手方や相手方の任意保険会社と交渉する負担から解放され、慰謝料等の増額も期待できますので、依頼することにメリットしかないといえるでしょう。

つまり、弁護士費用特約があれば、弁護士に依頼することは前提として「どの弁護士に依頼するか」だけを考えればよくなります

交通事故の被害に遭ったとき、治療をどうするか、仕事や家事や育児をどうするかなど、悩み事は尽きません。
弁護士に依頼するかどうかという大きな悩み事から解放され、弁護士のサポートを気軽に受けられるようになるのは弁護士費用特約の大きなメリットです。

納得できないときの選択肢が大きく増える

弁護士費用特約があれば、納得できないときの選択肢が大幅に増えます。
その基本となるのは弁護士への依頼でしょう。

しかし、弁護士に依頼しても示談交渉が難航することはあります。
その場合は訴訟や異議申立てなどの対応を考えなければなりませんが、通常は追加の弁護士費用や実費がかかってしまいます。
弁護士費用特約はこれらの費用も補償してくれるので、弁護士費用特約がない場合よりも取り得る選択肢が増えることになります。

追加の弁護士費用も補償される

弁護士費用特約がない場合、不確定要素(リスク)があるために追加の弁護士費用を支払ってまで訴訟などで争うかどうかは慎重に検討しなければなりません。
場合によっては、リスクを回避するために妥協し諦めたほうがよいこともあります。

弁護士費用特約があれば、このような心配はなくなるか、大幅に軽減されます。
勝訴の可能性がないとはいえないのであれば、費用の観点から諦めることなく争うことができるようになるのです。

可能な限り争えるかどうかは、当事者の満足に大きな影響を及ぼす重要な事項です。
争いが訴訟などに発展したときに追加の弁護士費用も補償されることは弁護士費用特約の大きなメリットだといえるでしょう。

実費の負担は軽視できない

訴訟や異議申立てをする場合、追加資料や証拠が必要です。
例えば、怪我の状況や後遺障害の程度を明らかにするために医師に意見書を書いてもらったり専門機関で医療鑑定を受けたりすることが考えられます。

しかし、医師の意見書や専門機関での医療鑑定には数万円~数十万円の費用がかかります。弁護士費用特約がない場合は費用負担が重くのしかかってしまうケースもあり得ます。
多額の費用をかけても不確定要素により成果が出ないこともありますので、大きな実費がかかるときに争いを継続するかどうかは思案のしどころです。

一方、弁護士費用特約はこのような実費も補償されるので、実費の負担が懸念されるケースでも積極的に争っていくことができます

実費の負担を考えて諦めざるを得ないとなると、どうしても不満が残ってしまうものです。
弁護士費用特約があればそういった不満が残ることを避けられるメリットがあるといえます。

弁護士費用特約が実費を負担するといっても当然ながら無制限ではなく、必要性があって金額が常識的な範囲に限られます。
実費をかけるかどうかは事前に弁護士費用特約の保険会社に確認したほうがよいでしょう。弁護士に依頼しているのであれば弁護士が弁護士費用特約の保険会社と協議してくれるはずですので、弁護士とよく相談して進めるようにしてください。

まとめ

この記事で、弁護士費用特約が非常に役立つことをご理解いただけたと思います。

弁護士費用特約があれば依頼者が弁護士に依頼することで逆に損をするようになる可能性がほとんどなく、対応方法を広く選択できるようになります。対応する弁護士の側から見ても非常にありがたいサービスです。

まずは交通事故に遭う前に弁護士費用特約に加入しておくこと交通事故に遭ったときは弁護士費用特約が使えないかどうかを諦めずに確認することを心がけてください。

くずは凛誠法律事務所では、交通事故でお困りの方のご相談を随時お受けしています。弁護士費用特約について分からないこともアドバイスいたしますので、お気軽にお問い合わせください。

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