専業主婦(主夫)も休業損害を請求できる? 弁護士が解説します

休業損害・慰謝料

こんにちは、大阪府枚方市にある「くずは凛誠法律事務所」です。

交通事故により怪我をして仕事を休業しなければならなくなったときは、加害者側に対し休業損害の補償を請求することができます。

では、専業主婦(主夫)の場合はどうでしょうか。

専業主婦(主夫)は金銭的な収入を得ているわけではありませんが、家事や子どもの世話などこれまでできていたことができなくなり、余計な出費が増えたり家族の負担が増したりして一定の不利益を被ることは十分にあり得ることです。

専業主婦(主夫)は休業損害の補償を請求できるのでしょうか。請求できるとして、どのように計算するのでしょうか。弁護士が解説します。

この記事のポイント

  • 休業損害とは得られたはずの収入が交通事故により得られなくなったことをいい、補償の対象になる。金額は「1日あたりの基礎収入×休業日数」で計算する。
  • 専業主婦(主夫)も休業損害は補償される。主婦休損(主夫休損)と呼ばれている。
  • 主婦休損(主夫休損)を計算するときの「1日あたりの基礎収入」は、原則として女性労働者の賃金センサス(平均賃金)から決定される。
  • 休業日数は家事労働ができなかった日数となるが、まったく家事ができなかったわけではない場合は家事のできない程度に応じて1日あたりの損害を50%などに限定することもある。
  • 主婦休損(主夫休損)を請求する場合、症状の内容や家事の支障(できなかった家事の内容)などを日記のように記録しておくことがおすすめ

休業損害とは

休業損害とは、交通事故で負った怪我により仕事ができず休業する必要がある場合に、本来得られたはずの収入が休業したことで得られなくなった損害のことをいいます。

休業損害を計算するときは、下記の算定式のように1日あたりの基礎収入に休業した日数を乗じて算定します。

休業損害の計算式

休業損害=1日あたりの基礎収入×休業日数

1日あたりの基礎収入は、事故前3か月の給与等の平均金額で計算することが通常ですが、年俸制の場合には年俸額を日割計算して1日あたりの基礎収入を計算します。

また、勤務先の就業規則等で欠勤時の控除額が定められている場合は、上記の計算式によらず実際に控除された金額を休業損害とすることができます。

休業により実際にどのような損害が出たかを算定することが必要ですから、ケースにより適切と思われる計算を行うことが重要です。

専業主婦(主夫)も休業損害の補償を請求できる

この記事のテーマである専業主婦(主夫)の場合ですが、専業主婦(主夫)も休業損害の補償を請求することが可能です。
実務上、「主婦休損(主夫休損)」(しゅふきゅうそん)と呼ばれることもあります。

専業主婦(主夫)は家事をすることで現実に金銭的な収入を得ることはありませんが、仮に他人に家事を依頼すれば相応の対価を支払う必要があるのですから、家事労働は金銭的に評価できるといえます。

そうすると、専業主婦(主夫)は家事労働により財産的な利益を得ていると考えられますから、交通事故で専業主婦(主夫)が家事をできなくなったのであれば経済的・財産的な利益が得られなくなり、損害が生じていることになります。

交通事故により損害が生じているのであれば、加害者側は補償しなければなりません。したがって、専業主婦(主夫)の場合も休業損害の補償を請求することができるのです。

なお、家事労働は専業主婦(主夫)が他人のために職業的に行うからこそ財産的な利益を生じさせるものです。
そのため、一人暮らしの家事や手伝い程度の家事は単なる生活上の行為に過ぎないとされ、休業損害として認められないことに注意しましょう。

主婦休損(主夫休損)の計算方法

主婦休損(主夫休損)を計算する場合、通常の休業損害と同様に、

休業損害の計算式

休業損害=1日あたりの基礎収入×休業日数

で計算されます。

問題は、「1日あたりの基礎収入」と「休業日数」をどう算定するのかということです。

専業主婦(主夫)の1日あたりの基礎収入

まず「1日あたりの基礎収入」について確認しましょう。

専業主婦(主夫)は給与所得者などと違って実際に金銭収入を得ているわけではありませんから、1日あたりの基礎収入を導き出すには専業主婦(主夫)の労働内容を評価して経済的な価値を算出することになります。

しかし、各家庭の家事状況等を細かく確認し経済的に評価することは現実的ではありません。例えば、Aさんは料理が上手で手際もよいから家事労働の経済的価値が大きい(収入が大きい)と考えて金額に反映させるのは、理論的にはあり得るかもしれませんが、客観的な基準で判断することは不可能です。

そこで実務においては、賃金センサス(国が実施している賃金構造基本統計調査の結果)における女性労働者の産業計、企業規模計、学歴計の全年齢平均賃金額を専業主婦(主夫)の基礎収入(年収)と考え、これを365日で除して1日あたりの基礎収入を計算します。

例えば、令和3年の女性労働者の産業計、企業規模計、学歴計の全年齢平均賃金額は385万9400円ですので、これを365日で割り算することで、1日あたりの基礎収入は約1万573円と計算されます。

ただし、上記はあくまで標準的な専業主婦を想定した計算ですので、何らかの事情がある場合には減額されることがあります。

例えば、高齢の夫婦のみで年金生活をしている専業主婦の場合には、若い世代の家庭と比べて家事の必要量や家事能力は一定程度低下しているケースがあり得ます。
このようなケースでは被害者の家事労働の経済的価値も相対的に低く考えることになるので、事情に応じて基礎収入を上記の計算式の50%や80%などと低く算定することがあります。

男性の家事従事者である専業主夫の場合にも、女性労働者の平均賃金額を用いることが実務上の取り扱いとなっています(例えば、横浜地裁平成24年7月30日判決)。
 
女性の主婦休損を計算する際に女性労働者の平均賃金額を用いているところ、家事労働は男性がやっても同じ労働内容、経済的価値であるのだから、男性である専業主夫の場合も同様に女性労働者の平均賃金額を基礎収入とすべきという理屈によるものと考えられます。
 
主婦休損が最高裁判例において最初に認められたのは家事従事者が専ら女性であった時代です(最高裁昭和49年7月19日判決)。そのため、同判例においては女性労働者の平均賃金額を用いるとされたのですが、これが現在も実務上の取り扱いとして続いているといえるでしょう。
 
ジェンダー平等などが意識されている昨今では女性労働者ではなく男女計の平均賃金を用いることもあり得る考え方であるとは思いますが、現状では上記の実務的取り扱いが変わることは考えにくいのが実情です。

休業日数

主婦休損(主夫休損)を計算する際のもう一つの要素が「休業日数」です。

休業日数は、基本的に家事労働を行うことができなかった日数となりますが、実は休業日数も争いになり得るポイントです。

例えば、両腕を骨折していたり入院していたりした場合であれば、家事労働ができなかったことが分かりやすいので争いにはなりにくいといえます。

しかし、打撲や捻挫、特に頸椎捻挫などのいわゆるむち打ち症状の場合、外部からは症状の程度が分かりにくいものです。また、怪我は治療を受け時間が経過することで回復していくことが通常です。

そのため、交通事故の発生からある程度の期間が過ぎても家事労働ができなかったと主張する場合、本当に家事労働ができなかったのか、できなかったとしてどの程度できなかったのかといった点が争いになることがあります。

このような争いになったときは家事の支障について具体的に主張し立証をする必要があります。

ただし、最終的には、家事に支障があった期間についてすべて一日中休業があったとするのではなく、次のような方法で調整することもあり得るでしょう。

休業日数に関する調整方法の例
  • 怪我をしたときから治療終了のときまで平均して50%休業があったとする
  • 治療期間6か月のうち事故後2か月目までは100%、2か月目から4か月目までは50%、4か月目から6か月目(治療終了)までは30%というように段階をつけて計算する

兼業主婦(主夫)の場合の休業損害

ここまでは専業主婦(主夫)を前提にご説明してきましたが、家庭において家事をメインで担当しながら労働収入を得ている兼業主婦(主夫)の方もいらっしゃるでしょう。
兼業主婦(主夫)の休業損害はどうなるのかもご説明します。

兼業主婦(主夫)の休業損害の計算方法

兼業主婦(主夫)の場合、原則として、主婦休損(主夫休損)か実際の休業損害(収入減少金額)のどちらかのみを請求することになります。

どちらを請求するのかは、賃金センサスによる平均賃金額と実際の労働収入金額を比較することになります。

賃金センサスによる平均賃金額>実際の労働収入金額」の場合、主婦業(主夫業)がメインであると考えられるので主婦休損(主夫休損)を請求することになります。

一方、「賃金センサスによる平均賃金額<実際の労働収入金額」の場合は、通常の労働者としての仕事がメインであると判断されます。そのため、通常の労働者と同様に仕事を休んだことで生じた休業損害の補償を請求することになり、主婦休損(主夫休損)は請求できません。

仕事と家事の両方の休業損害は請求できない?

兼業主婦(主夫)の休業損害については、仕事と家事の両方の休業損害を請求できないのかと疑問に思う方もいるかもしれません。

しかし、兼業主婦(主夫)の休業損害は、上記でご説明したとおり、仕事か家事のどちらか片方しか請求することができません

兼業主婦(主夫)の場合には、仕事をしている分だけ専業主婦(主夫)よりも家事への労力配分が低下していたり、他の家族による家事のサポートがあったりすると考えられます。そうすると、主婦休損(主夫休損)の金額は専業主婦(主夫)よりも低くなるはずです。
しかし、兼業主婦(主夫)に対しても専業主婦(主夫)と同等の補償をすることで、仕事で生じている休業損害についても補償されていると取り扱われているといえます。

一方、平均賃金よりも多い労働収入を得ている場合には、通常の労働者としての仕事がメインとなっており、家事への関与や労力配分は相当程度に低くなっている場合が多いと考えられます。
そのため、この場合には職業的に家事をしているとの色彩は弱まり、本業である仕事の休業損害を補償すれば足りると取り扱われることになります。

このような考え方から、主婦休損(主夫休損)か実際の休業損害(収入減少金額)のどちらかを基準に補償すれば金額の小さい方についても賠償されたとされ、片方しか請求することができないのです。

主婦休損(主夫休損)を請求するときのポイント

主婦休損(主夫休損)を請求するときのポイントは以下のとおりです。

家族のために家事をしていることを明らかにする

主婦休損(主夫休損)は、家族のために家事をしている場合のみ認められます。

そのため、主婦休損(主夫休損)を請求する場合には家族構成や他の家族の就労状況、同居していることを示して、被害者が家族のために家事をしていたことを明らかにしなければなりません。場合によっては、世帯全員が記載された住民票などの資料が必要となることもあります。

また、同居をしていない場合でも、例えば近所に住む高齢の親の家に頻繁に出向き家事を引き受けているといったケースであれば主婦休損(主夫休損)の請求ができる可能性がありますので、主婦休損(主夫休損)が補償されるべき事情はしっかり主張するようにしましょう。

症状や家事の支障について記録を取っておく

主婦休損(主夫休損)を請求する場合、本当に家事ができなかったのかどうか、家事ができなかった程度については争いになりやすいところです。

このとき、家事にどういった支障があったのかを丁寧に主張することが必要になることがあります。
そうなった場合に備えて、具体的な症状と症状によって生じた家事の支障について記録を取っておくことが有用です。

記録は、簡単な日記を残すような方法でよいでしょう。
例えば、首の痛みが酷いケースで、「以前は洗濯を一人でできていたが、干したり取り込んだりすることができないので夫に代わってもらった。」、「料理時に下を向くことができないため出前を頼んだ。」などの記録を残すことが考えられます。

日記のように規則的に記録を残していれば裁判でも証拠として使える可能性もありますので、記録を残すことはおすすめです。

弁護士に相談、依頼する

主婦休損(主夫休損)は有職者の場合と違って、休業により生じた損害(得られなかった金額)が数字として分かりにくいところがあります。

そのため、被害者が個人で加害者側の任意保険会社と交渉した場合には、保険会社の言う通りに進められてしまい適切な補償がされないまま示談に応じてしまう可能性もあります。

このような事情を反映してか、主婦休損(主夫休損)は、慰謝料と同様に弁護士に依頼した場合に増額が得られやすい項目になっています。

適切な主婦休損(主夫休損)を得たいのであれば、弁護士に相談、依頼することをおすすめします。

まとめ

この記事では、専業主婦(主夫)が休業損害の補償を請求できることと、計算方法について解説しました。

専業主婦(主夫)が交通事故に遭った場合、家事ができずに余計な出費が増えたり家族に負担をかけたりといった事態も珍しくありませんから、適切な補償を受けることは非常に大切です。

ポイントとしてもご説明したように、適切な主婦休損(主夫休損)の補償を受けるためには弁護士に依頼したほうがよいでしょう。

くずは凛誠法律事務所では、交通事故のご相談を随時お受けしております。初回相談料は無料(又は弁護士費用特約により自己負担なし)で対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

くずは凛誠法律事務所 代表弁護士 米田光晴
大阪弁護士会所属。大阪市、神戸市の法律事務所で約5年間、勤務弁護士として多数の案件を経験。2022年4月より大阪府枚方市で「くずは凛誠法律事務所」を開設し、代表弁護士として交通事故、離婚、刑事事件など幅広く事件対応を行っている。

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