休業損害補償を打ち切られそうになったときの対処法は? 弁護士が解説します

休業損害・慰謝料

こんにちは、大阪府枚方市にある「くずは凛誠法律事務所」です。

交通事故により怪我をしたことで働けなくなり、収入が減ってしまったときは休業損害の補償を受けることができます。

ただ、骨折して入院しているケースなどであればともかく、いわゆるむち打ち症による痛みや体調不良で仕事を休む場合などでは、加害者側と休業損害の補償の支払いについて争いになることも少なくありません。交通事故が起きてからしばらくすると「補償を打ち切る。」と通告されることもあり得ます。

休業損害の補償を打ち切られそうになったときはどうすればよいのでしょうか。弁護士が解説します。

この記事のポイント

  • 休業損害の補償が打ち切られそうになるときは、休業の必要性」が問題になっている。
  • 保険会社が補償を打ち切るときは休業の必要性がないのではないかと疑っており、特にむち打ち症で他覚的な異常所見がない場合には長くとも2~3か月程度で打ち切りを通告してくることが多い。
  • 休業損害の補償打ち切りに対しては、被害者が証拠を集め休業の必要性について説明するなど適切に対応しなければならない

問題になるのは「休業の必要性」

休業損害の補償を打ち切られそうになるとき、問題となっているのは「休業の必要性」です。

「休業の必要性」とは

休業の必要性」とは、交通事故で受けた怪我により仕事を休む必要があることをいいます。

交通事故の加害者は被害者に対し損害賠償責任を負いますが、それは交通事故と因果関係がある範囲に限られており、休業の必要性がないときには因果関係がないと判断されます。

極端な例ではありますが、例えばほとんど痛みもないような軽い打撲程度で済んだのに被害者が交通事故を口実に1か月仕事を休んだケースは、交通事故によって休業が必要になったわけではなく単なる怠業だと言わざるを得ません。
したがって、このようなケースでの休業は交通事故とは因果関係がなく補償の対象にはなりません。

一方で、例えば骨折して入院しなければならない場合、入院中は仕事ができないことが通常ですから休業の必要性があることが分かりやすいケースといえるでしょう。

休業の必要性は症状と仕事内容により決まる

休業の必要性は、症状仕事内容によって決まります。

症状が大きければ大きいほど仕事が困難になるのは理解しやすいところですが、同じ症状であっても仕事内容によって休業が必要になるかどうかは変化します

例えば、利き手が右手の人が左手の小指を骨折したケースを考えてみましょう。
もし被害者の仕事内容がオフィス内での事務作業であった場合には、多少の不便や能率の低下はあっても仕事を完全に休まなければならないとまでは考えにくいところです。
しかし、被害者の仕事がプロのピアニストであった場合、仕事は完全にできなくなるか相当に制限される可能性は高いでしょう。

このように、休業の必要性があるかどうかを考える際には、症状と仕事内容を照らし合わせることが不可欠です。

保険会社が休業損害の補償を打ち切る理由とタイミング

保険会社が休業損害の補償を打ち切る理由と、打ち切られやすいタイミングについてご説明します。

保険会社は「休業の必要性」がないのではないかと疑っている

保険会社も営利企業ですので、保険金を支払うとしても可能な限り支払う金額を小さくしたいと考えています。つまり、保険会社としては支払うべきでないお金を支払ってしまうことを非常に警戒しているということです。

保険会社が示談する前に休業損害の補償を行っているのは、「休業の必要性」があることから現時点で支払いを拒否しても将来は必ず支払いに応じなければならないと分かっているからです。

逆に言えば、保険会社が休業損害の補償を打ち切るのは、「休業の必要性」がないと判断しているか、少なくとも「休業の必要性」がないのではないかと疑っていることを意味します。

交通事故があった日からある程度の期間が経過すると休業損害の補償の打ち切りが起こりやすくなりますが、これも怪我が回復してきて休業の必要性がなくなっていくと考えられるからです。

むち打ち症での休業は争いになりやすい

交通事故で最も多い怪我はいわゆる「むち打ち症」であると言われています。ただし、むち打ち症は正式な傷病名ではなく、診断名としては「頸椎捻挫」、「頸部挫傷」、「外傷性頚部症候群」などが用いられます。

交通事故によりむち打ち症に苦しむ方は少なくありませんが、むち打ち症での休業は特に争いになりやすいところになっています。むち打ち症は外観から怪我が分かりにくく、レントゲン(エックス線)検査やMRI検査といった画像検査などで他覚的な異常所見がないケースも少なくないため、加害者側が休業の必要性に疑念を持ちやすい傾向にあるからです。

特に、交通事故から数か月程度が経っても休業が続いている場合、加害者側の任意保険会社から補償の打ち切りを通告されることが多くなります。「怪我は時間経過と治療により回復していくはずなのに、数か月経っても仕事ができない状態が続いているのはおかしい。休業の必要性はないのではないか。」というわけです。

むち打ち症の場合、事故の内容や規模、画像検査による異常所見の有無などにもよりますが、加害者側の任意保険会社は長くとも概ね2~3か月程度で休業損害の補償打ち切りを通告してくることが多いように思われます。
事故が軽微である場合には1か月程度で打ち切ってきたり最初から休業損害の補償を拒否されたりすることもあります。

むち打ち症については次の記事で横断的に解説しています。

休業損害の補償を打ち切られそうになったときの対応ポイント

では、休業損害の補償を打ち切られそうになったときには具体的にどうすればよいのでしょうか。被害者が行うべき対応ポイントをご説明します。

主治医から休業の必要性に関する医学的意見をもらう

休業の必要性に関して最も重要な証拠は主治医の医学的な意見です。主治医の意見に基づいて加害者側の保険会社と交渉することで、補償の打ち切りを回避できる可能性が高くなります。

このとき、休業の必要性は実際の仕事内容にも左右されるので、主治医には被害者の仕事内容を説明し理解してもらったうえで意見をもらうようにしてください。

意見をもらうべき内容としては、身体の状況からその仕事をすることが可能か、休業しない場合に業務上の事故が起きるおそれがないか、症状が悪化したり治療の妨げになったりしないか、などが考えられます。

主治医から有益な意見をもらえる場合には、意見を診断書等の書面にしてもらいましょう。口頭だけではなく書面として証拠化することが非常に重要です。

勤務先との間で復職や配置転換等の協議を行う

被害者としては、交通事故に遭ったとしても損害が無用に拡大しないように対応する必要があります。

そのため、勤務先との間で復職や配置転換等の協議を行うべきです。職場内で配慮してもらうことで復職することはできないか、あるいは一時的にでも別の部署に異動して復帰できないかなどを協議し、勤務先の対応の可否や意向について確認しておくことは、損害賠償請求のためにも勤務先とのトラブル回避のためにも重要です。

勤務先との協議の内容や復職可否の結果も、休業の必要性を判断するうえで重要な要素になる可能性があります。

他の制度による補償や内払いを受けることを検討する

主治医の意見などから休業の必要性が認められるべきであるのに、加害者側の任意保険会社が頑として支払いを拒否することもあり得ます。

示談前の休業損害の補償の支払いは、治療費等と同じく「サービス」で先払いをしているに過ぎず、原則的には示談時や訴訟で判決が確定したときに支払えばよいからです。

このようなときは腰を据えて示談交渉や訴訟提起により解決を図っていくことになりますが、時間がかかることは避けられません
しかし、実際に休業し収入が途絶えている状態だと、示談金や損害賠償金が得られるまでの生活費に困ってしまうことも懸念されるところです。こうなってしまうと、当座の資金のために示談を急ぎ、不利な条件でも妥協してしまうおそれもあります。

そこで、こういったケースでは下記のような他の制度による補償を活用して当座の資金を賄うことで生活を安定させることを検討すべきです。

①労災保険の休業補償給付・休業給付

交通事故が業務中又は通勤中に起きたものであれば労災保険の適用が受けられます。労災保険からは給与の8割相当額の給付(休業補償給付・休業給付6割+特別手当金2割)が受けられます。

②健康保険の傷病手当金

労災保険の適用がない交通事故の場合には、健康保険から給与の3分の2相当額の傷病手当金が受けられます。

③人身傷害補償特約

自身の加入する保険に「人身傷害補償特約」が付いている場合には、自身の保険から補償を受けることができます。自身の加入する保険会社に問い合わせるなどして、人身傷害補償特約がないかどうか確認しましょう。

また、加害者側の任意保険会社と交渉し、示談の前に一定額の内払い(示談金の先払い)を受けるという方法もあります。これは示談金の先払いですから示談時には既払い金として処理されますが、当座の資金を確保するために有効な方法です。

これらの方法で生活を安定させたうえで示談交渉や訴訟で争うことで、適切な休業損害の補償を受けられる可能性が広がります。

休業の必要性は被害者が証明しなければならないことに注意

休業損害の補償を打ち切られそうになったとき、被害者が理解しておかないといけないのは、「休業の必要性は被害者が証拠を用意して証明しなければならない」ということです。

加害者側である任意保険会社はもちろんですが、訴訟になった際に判断する裁判所も証拠がなければ被害者の主張を認めることはありません「これだけ痛いのだから分かってくれるはずだ。」、「こちらは被害者なのだから補償されるべきだ。」などという考え方は通用しないのです

休業損害の補償を求める場合、被害者側において受傷経緯(事故の内容)、治療経過や具体的な症状、仕事内容、主治医の医学的意見などを説明するとともに、診断書などの裏付けとなる証拠を用意することが求められます。

必要な証拠が用意できなければ休業損害の補償は受けられません。受けられたとしても、特にむち打ち症で交通事故から時間が経っているときなどは、時間経過や治療により体が回復して完全休業の必要性は減少していたとして30%や50%のように制限されることもあり得ます

被害者は、これらを十分に理解したうえで適切に対応することが求められます。自分だけで対応することが難しい場合は弁護士に相談、依頼することをおすすめします

まとめ

この記事では、休業損害の補償を打ち切られそうになったときに問題となる「休業の必要性」をご説明し、具体的な対応ポイントを解説しました。

交通事故による損害について適切な補償を受けるには被害者が証拠を収集し立証しなければならないことも多く、休業損害はその1つです。
加害者側が簡単に補償に応じるケースばかりではないので、ご不安な方やお困りの方は弁護士に相談、依頼するのがよいでしょう。

くずは凛誠法律事務所では、休業損害の補償やその他交通事故に関するご相談を随時お受けしております。初回相談料は無料(又は弁護士費用特約により自己負担なし)で対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

くずは凛誠法律事務所 代表弁護士 米田光晴
大阪弁護士会所属。大阪市、神戸市の法律事務所で約5年間、勤務弁護士として多数の案件を経験。2022年4月より大阪府枚方市で「くずは凛誠法律事務所」を開設し、代表弁護士として交通事故、離婚、刑事事件など幅広く事件対応を行っている。

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