こんにちは、大阪市枚方市にある「くずは凛誠法律事務所」です。
交通事故で怪我をしたとき、治療をしても事故が起きる前の状態まで回復しないことがあります。その際に残った症状のことを「後遺障害」といいます。
後遺障害が残ったときは自賠責保険における後遺障害等級の認定手続をする必要がありますが、この認定手続を加害者側の任意保険会社に任せてしまう方も多いようです。
しかし、加害者側の任意保険会社に任せることは実は得策ではないかもしれません。
その理由と、望ましい手続方法について弁護士が解説します。
交通事故における後遺障害とは
治療を続けても効果が出なくなり、症状が大きく改善しなくなった状態を「症状固定」といいます。
症状固定になった後に病院に通院した場合、たとえ症状が残っているとしても症状固定後の通院分の治療費は賠償されません。
損害賠償の目的は「交通事故に遭う前の状態に戻す」ことにあります。
交通事故における治療も、交通事故によって生じた怪我という損害を回復するために必要であると解釈されているため、治療費の支払いを加害者側に請求することができます。
しかし、治療の効果がなくなってしまえば損害回復の意味合いがなくなってしまうので、加害者側も治療費の賠償責任も負わないことになります。
このとき、残存した後遺障害はそれ自体が別個の「損害」であるとされます。仕事をする能力が将来にわたって一定程度制限されてしまい経済的な不利益を受けることが想定されますし、生活上の不便を強いられるなどして精神的な苦痛も受けるからです。
そのため、治療が終わっても後遺障害が残っているときは、残らなかったときと比べて多額の損害賠償請求が認められる可能性があります。
後遺障害の等級認定の重要性
後遺障害については自賠責保険が症状の程度に応じて1級~14級の等級を定めており、1級に近づくほど程度が重いとされます。この等級が認められるかどうか、及びどの程度の等級が認められるかが賠償金額に大きな影響を及ぼします。
例えば、体の一部に痛みやしびれなどの神経症状が残り14級が認定されたときは裁判所基準で110万円程度の慰謝料が追加で得られる可能性があり、遷延性意識障害(いわゆる植物状態)になった場合は1級が認められ、2800万円程度の慰謝料が追加で認められる可能性があります。このように、等級に応じて慰謝料等の賠償金額は大きく異なることになります。
一方、自賠責保険で後遺障害の等級が認定されないと、少なくとも示談交渉段階において、加害者側の任意保険会社は後遺障害がないものとして取り扱います。仮に弁護士に依頼しても等級が認定されていない以上は交渉で譲歩させるのは非常に困難ですので、示談交渉では事実上請求できないものといえます。
後遺障害の有無や程度は、自賠責保険の審査では認められずとも最終的には裁判所の判断(判決)が優先されます。
しかし、裁判所も自賠責保険での等級認定状況を参考にして判断するのが通例です。そのため、自賠責保険での等級認定が受けられていないと、裁判でも事実上不利になってしまう可能性が高くなります。
以上のことから、自賠責保険における後遺障害の等級認定は非常に重要なのです。
後遺障害等級認定の2つの手続方法
自賠責保険から後遺障害の等級認定を受ける手続には、「事前認定」と「被害者請求」の2つの方法があります。
事前認定
事前認定は、加害者側の任意保険会社が行う手続です。
加害者側の任意保険会社は自賠責保険が支払うべき分も合わせて被害者に賠償し、後日に自賠責保険に対して、自賠責保険が負担すべきだった金額を請求するという対応をしています(「一括払い対応」といいます。)。
後遺障害に関しても同様の取り扱いをしていますが、加害者側の任意保険会社は自賠責保険が後遺障害の等級を認定し後遺障害に関する賠償もするかどうかを事前に確認します。そうしなければ、被害者に支払った後に自賠責保険から支払いを拒否されてしまうおそれがあるからです。
加害者側の任意保険会社は自賠責保険と足並みを揃えようとしていると考えると分かりやすいでしょう。
自賠責保険に対する事前確認の手続が「事前認定」です。
事前認定の手続においても後遺障害の有無と程度が審査され、被害者は任意保険会社を通じて等級認定の結果の通知を受けることができます。
被害者請求
被害者請求は、交通事故の被害者自身(またはその依頼を受けた弁護士)が自賠責保険に対し保険金の支払いを求める手続です。
自賠責保険に対し後遺障害に関する保険金を請求することで、自賠責保険に後遺障害の等級審査を行わせることができ、等級認定結果を得ることができる仕組みとなっています。
被害者請求においては、被害者が必要な資料を収集し、自賠責保険に提出します。このとき、必ず提出すべき書類以外にも被害者側で必要だと考えた資料を追加で提出することができます。
事前認定によることのデメリット
弁護士に依頼していない場合、交通事故の被害者は加害者側の任意保険会社任せになる事前認定で後遺障害の等級認定を行いがちです。
被害者請求をするには必要な書類が多く知識やノウハウがないと負担が大きいですし、そもそも被害者請求という手続方法があることも把握していない方も珍しくないからだと考えられます。
しかし、加害者側の任意保険会社は被害者の味方ではありません。
不正を働くことは考えにくいとは思いますが、被害者の有利になるように積極的な行動をする立場にはないことは明らかです。そのため、事前認定でも必要最低限の書類の提出を行うのみであることが多いと考えられます。
自賠責保険の後遺障害等級の認定審査は原則として書類審査ですから、書類の提出がなければ審査の際に考慮してもらうことができません。
加害者側の任意保険会社に任せた場合、仮に後遺障害が認定されやすくなるような有利な資料があったとしても審査手続に提出してもらえるとは期待しにくいといえるでしょう。
その結果、後遺障害の審査で不利になるおそれがあることが事前認定のデメリットといえます。
後遺障害等級の認定を被害者請求でするべき理由
被害者請求の場合は手続上必要な書類以外にも、後遺障害認定のために有利な資料を追加で提出することができます。
被害者側で提出する書類等を積極的にコントロールできるので、事前認定よりも後遺障害が認定される可能性が高まります。
追加で提出したほうがよい書類としては、例えば検査画像の鑑定書や、被害者自身がどのような症状に苦しんでいるのかなどの事情を記した陳述書、医師や弁護士の意見書などが考えられます。
被害者請求は準備が大変ですが、事前認定よりも後遺障害認定の可能性を高めることができます。
後遺障害に苦しんでいるのであれば、事前認定ではなく被害者請求をしたほうがよいでしょう。
異議申立てをすればよいとの考えはおすすめできない
被害者請求は事前認定よりも後遺障害が認められる可能性を高くできますが、手間や労力がかかることは難点です。
そのため、「まずは手間のかからない事前認定で後遺障害の審査を受け、もし上手くいかなければ異議申立てをして再審査を受ければよい」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、この方法はおすすめできません。その理由をご説明します。
異議申立ての成功率は低い
おすすめできない理由の一つは、異議申立ての成功率が低いことです。
2020年度の統計(2022年4月公表)によると、異議申立て件数12,307件に対し等級変更が認められたのは1,911件となっていますから、後遺障害の等級認定に対する異議申立ての成功率は統計上15%程度です(出典:損害保険料率機構「自動車保険の概況(2021年度版)」。
異議申立ては、一度出た認定結果を覆すものである以上、相応の理由や十分な追加資料がなければ認められないと考えられ、初回の審査よりも厳しく判断されている可能性があります。また、担当者も人間ですから、初回の審査の結果を覆すことに抵抗感を覚える可能性もあり、初回の審査よりも異議申立ては不利になってしまうおそれがあるのです。
異議申立ての結果が出るのに時間がかかる
異議申立ての結果が出るまでには数か月から半年程度の時間がかかることも多く、時間がかかることも問題です。
通常、示談は後遺障害の認定結果が出てからとなりますから、異議申立てにより後遺障害等級の認定が遅れると示談金を受け取れるようになるのも遅くなります。
異議申立てではなく、初回の審査で等級認定を目指す
以上のように、異議申立ては成功率が低く時間もかかります。
これらの問題点から考えると、異議申立てに頼るのではなく最初の審査時点で適切な後遺障害の認定が受けられるように活動したほうがよいでしょう。
なお、異議申立てについて詳しく知りたい方は、次の記事で詳しく解説していますのでお役立てください。
まとめ
この記事では、後遺障害の認定手続について、加害者側の任意保険会社任せにする事前認定ではなく被害者請求で行うべきこととその理由をご説明しました。
被害者請求をするのであれば、弁護士に依頼したほうがよいでしょう。
不慣れな方であれば大変な書類作成も弁護士に任せることができますし、必要に応じて医師に医療照会をしたり弁護士の意見書を作成したりと後遺障害認定につながる資料の準備もしてもらえるからです。
くずは凛誠法律事務所では、交通事故のご相談を随時お受けしております。初回相談料は無料(又は弁護士費用特約により自己負担なし)で対応しておりますので、お気軽にご相談ください。