こんにちは、大阪府枚方市にある「くずは凛誠法律事務所」です。
交通事故での怪我が治りきらず、後遺障害が残ってしまったときは自賠責保険で後遺障害等級の認定を受けることになります。
しかし、申請をしたものの後遺障害等級の認定を受けられなかったり、実際に生じている後遺障害よりも程度の軽い等級しか認定されなかったりして、認定結果に納得できないこともあり得るでしょう。
後遺障害の等級認定の結果に納得できないときはどうすればいいのでしょうか。弁護士が解説します。
納得がいかないときは「異議申立て」
後遺障害の等級認定の結果に納得がいかないときは、自賠責保険における等級認定結果に対して「異議申立て」をすることができます。
異議申立てとは
異議申立てとは、後遺障害の等級認定結果に不服があるとして異議を申し立て、再審査を求めることです。異議申立ては特に手数料などはかからず無料ですることができ、回数制限もありません。
自賠責保険における後遺障害の等級認定は、損害保険料率算出機構という機関が行っています。
損害保険料率算出機構は、統計調査を行うなどして自賠責保険の保険料の基準を定める公的な機関です。自賠責保険の損害調査も行う機関でもあり、損害保険料率算出機構が設置する自賠責損害調査事務所が担当部署として、中立な立場で後遺障害の等級認定事務を行っています。
しかし、後遺障害の等級認定は書面審査のため、書類に不備があったり、実際に生じている後遺障害の内容についての医療情報が不足していたりすると誤った認定が行われてしまう可能性があります。
異議申立ては、このようにして誤った認定が行われてしまった際に、再審査をして正しい認定をしてもらう方法といえるでしょう。
そのため、異議申立てを成功させるには誤った認定が行われた原因を考えたうえで正しい認定をしてもらうための追加資料を用意することが不可欠といえます。
異議申立ての成功率は低い
異議申立てを行う際に注意しておきたいこととして、異議申立ての成功率が低いことがあります。
2020年の統計(2022年4月公表)によると、異議申立て件数12,307件に対する結果は次のようになっています。
審査結果 | 件数 |
---|---|
等級変更あり | 1,911件 |
等級変更なし | 10,032件 |
再調査 | 264件 |
その他 | 100件 |
上記のうち、異議申立てが成功したものは「等級変更あり」となった1,911件ですので、異議申立ての成功確率は統計上15%程度です。過去の年度も、多少の増減はあっても同程度の結果になっていますから、ある程度確立した傾向であるといえるでしょう。
このように成功率が低いのは、そもそも認定が覆る可能性がないのに異議申立てをしているケースがあることも影響していると思われますが、追加資料を上手く用意することができなかったケースも多いことも大きな原因であると考えられます。
いずれにせよ異議申立てを成功させるのは決して簡単なことではありません。闇雲に異議申立てをするのではなく、弁護士に相談するなどしてしっかりと準備して行うことが大切です。
異議申立ての必要書類
異議申立てをするには、次の2つの書類を用意する必要があります。
- 異議申立書 必須
- 後遺障害に関する追加資料 任意
それぞれ詳しく見ておきましょう。
異議申立書
異議申立書は必ず必要な書類ですが、特に決まった書式はありません。
交通事故があった日付や当事者名、加害者の自賠責保険の証明書番号などを記載してどの交通事故の件かを特定した上で、異議申立ての趣旨と理由を記載するのが一般的です。
異議申立ての趣旨は、異議申立てにより求める結論部分を端的に記載します。例えば、「自賠責後遺障害等級別表第二第14級9号に該当するとの判断を求める。」などと記載します。
異議申立ての理由は、前回の後遺障害の等級認定が誤っていることや、主張する等級が認定されるべき根拠などの説明を記載します。必要に応じて、医療情報が記載された資料を引用しながら説得的に説明することが求められます。
後遺障害に関する追加資料
後遺障害に関する追加資料は、手続上は提出が必須というわけではありませんが、提出しない場合は異議申立てが成功する可能性は限りなく低くなってしまいます。可能な限り提出するようにしましょう。
提出する追加資料としては、病院のカルテや医師の診断書・医療情報照会回答書、検査画像の医療鑑定書などが考えられます。
これらを用意するには医師の協力や一定の費用が必要であることもありますので、医師や弁護士とよく相談しながら準備を進めるようにしてください。
異議申立ての流れ
異議申立ては次のような流れで行います。
- 異議申立書、追加資料の準備
異議申立書は自分で作成し、追加資料は病院等から取得します。 - 異議申立書と追加資料を保険会社に提出(郵送可)
事前認定の場合は任意保険会社、被害者請求の場合は自賠責保険会社に提出します。 - 審査結果が出るのを待つ
ケースによりますが、数か月から半年程度かかることが通常です。 - 審査結果の書類交付
事前認定の場合は任意保険会社経由で書類が交付され、被害者請求の場合は直接郵送されてきます。
後遺障害の申請と同様に、異議申立てにも事前認定と被害者請求の2つのやり方がありますが、書類の提出先や審査結果の書類の返送が任意保険会社を経由するかどうかだけの違いになります。
後遺障害の申請を事前認定でしていた場合でも、異議申立てから被害者請求にすることが可能です。
異議申立てのポイント
前記のとおり、異議申立ての成功確率は15%程度と低いものです。異議申立ての成功確率を少しでも上げたい場合は、次のようなポイントを意識しましょう。
後遺障害等級の認定基準に照らして検討する
大前提の話にはなりますが、自身に生じている後遺障害が後遺障害等級の認定基準に照らして誤った認定をされているかどうかの検討を忘れないようにしましょう。
後遺障害等級の認定基準は非常に詳細に定められています。
例えば、「1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」は後遺障害等級12級7号とされていますが、ここでいう「機能に障害を残すもの」とは関節の可動域が健康な側の可動域角度の4分の3以下に制限されているものをいうとされています。
つまり、片足の関節の可動域が悪くなっていても、健康な側の足と比べて80%や90%程度までの制限であれば12級7号は認定されません。このような場合では異議申立てをしても関節可動域の後遺障害が認められることはないことになります。
異議申立ては誤った認定を正すものですので、認定基準において誤った認定がされていない場合には異議申立てをしても意味がありません。まずは認定基準に照らして検討することが異議申立てを成功させる第一歩です。
追加資料を十分に収集する
認定基準に照らして誤った等級が認定されている場合には、そのことを明らかにする資料を準備しましょう。
後遺障害の等級認定は書面審査なので、追加資料がどれだけ用意できるかが成功の鍵を握っています。
追加資料を入手するには、医師にお願いして診断書や意見書などを書いてもらったり、検査画像の医療鑑定を行う企業等に依頼して鑑定書を作ってもらったりすることが考えられます。
追加資料を準備する際に大事なのは、誤った認定の原因である「書類の不備」や「医療情報の不足」を解消できるものを収集するということです。そのためには、当然ですが誤った認定の原因を把握することが大切です。
弁護士に依頼する
上記した、「後遺障害等級の認定基準に照らして検討する」ことも「追加資料を十分に収集する」ことも、被害者が自分だけで対応することには限界があるでしょう。
検討や追加資料の準備が不十分であれば、異議申立てが認められる可能性は極めて低くなってしまいます。
異議申立てを成功させたいのであれば、交通事故対応に精通した弁護士に依頼することが近道です。
異議申立てをすべきかどうか、する場合にはどういった資料を用意すべきかなど、弁護士と協議して進めることをおすすめします。
異議申立て以外の選択肢
後遺障害の等級認定に納得がいかないときは異議申立てが基本的な対応方法となりますが、異議申立てが上手くいかない場合などは次のような方法もあります。
自賠責保険・共済紛争処理機構への紛争処理申請
自賠責保険・共済紛争処理機構とは自賠責保険・共済からの支払いに係る紛争の調停を行う公正・中立な第三者機関です。
自賠責保険の後遺障害等級の認定は自賠責保険金の支払いのために行われるものですから、自賠責保険・共済紛争処理機構に紛争処理申請を行うことで後遺障害についても審査してもらうことができます。
手続費用は無料ですが、申請は1回しかできないことには注意が必要です。紛争処理(審査)の結果に不服がある場合には訴訟をしなければなりません。
訴訟
異議申立てが上手くいかないとき、それでも後遺障害の等級を争いたい場合には訴訟を提起するという選択肢があります。
訴訟の場合は異議申立てとは違い、自賠責保険ではなく裁判所がすべての証拠を見て後遺障害の認定を行います。判断する主体が異なりますし、裁判所は自賠責保険における認定結果には拘束されないので、自賠責保険における等級認定とは異なる結果が得られる可能性があるといえます。
ただし、裁判所も自賠責保険の認定結果は判断の参考として重視していますので、自賠責保険の認定結果を訴訟で覆すのはかなりハードルが高いことであるのは間違いありません。反面、裁判所は自賠責保険における認定結果には拘束されないことで、自賠責保険の認定結果よりも不利に認定されてしまうリスクもあることにも注意が必要です。
また、訴訟の場合には1年~2年程度の時間がかかることが多く、争点が少なく和解により早期解決ができたケースでも半年程度はかかります。
追加で弁護士費用が必要となったり、証人尋問など被害者自身の手間がかかる場面もあったりするのも難点ですので、訴訟を提起するかどうかは慎重に検討するようにしましょう。
まとめ
この記事では、後遺障害の等級認定の結果に納得できないときの対応方法として、異議申立てについて解説しました。
異議申立ての成功確率は高いとはいえませんが、後遺障害の等級認定は損害賠償金額に大きな影響を及ぼします。誤った認定をされている場合には適切な賠償が得られなくなってしまいますので、異議申立てを検討したほうがよいでしょう。
異議申立てをする場合には、独力で対応するよりも弁護士に依頼することをおすすめします。
くずは凛誠法律事務所では、後遺障害の認定や異議申立てなどの交通事故のご相談を随時お受けしております。初回相談料は無料(又は弁護士費用特約により自己負担なし)で対応しておりますので、お気軽にご相談ください。