交通事故で一番多い首・腰の怪我(むち打ち症)の補償はどうなる? 弁護士が解説します

交通事故の基礎知識

こんにちは、大阪府枚方市にある「くずは凛誠法律事務所」です。

交通事故で一番多い怪我は、首や腰の怪我です。交通事故で衝撃を受けたことで、首や腰の痛みや手足のしびれといった症状に悩まされることになります。

首や腰を怪我したとき、どのような補償が受けられるのでしょうか。弁護士が解説します。

この記事のポイント

  • 交通事故での首や腰の怪我(むち打ち症)では、痛みや手足のしびれ、知覚・感覚異常などの症状が出ることが多い。頭痛やめまいなどの症状が出る人もいる。
  • 首や腰の怪我(むち打ち症)の治療は、病院(整形外科)で受けるのが基本。MRI検査を受けること、週に3~4回程度通院することがおすすめ
  • 首や腰の怪我(むち打ち症)では、治療費休業損害通院慰謝料が補償され、後遺障害が残ったときはさらに後遺障害逸失利益後遺障害慰謝料が補償の対象となる。
  • 首や腰の怪我(むち打ち症)でも後遺障害が残ることがあり、12級又は14級の後遺障害等級が認定される可能性がある。認定された等級に応じて後遺障害逸失利益、後遺障害慰謝料を請求できる。

首や腰の怪我(むち打ち症)はどういう症状?

首や腰の怪我は、交通事故で最も多い怪我です。特に追突事故の被害を受けた場合などに多く、首や腰に衝撃を受けることで負傷することになります。

特に首の怪我は、外部からの衝撃で首が鞭がしなるように不自然に動いてしまうことで負傷することから「むち打ち症と呼ばれます。
もっとも、むち打ち症は俗称であり、正式な診断名には「頚椎捻挫」、「頚部打撲」、「外傷性頚部症候群」などが用いられます。

首や腰を怪我した場合、痛みのほか、手足のしびれ知覚・感覚の異常などが生じることがあります。頚椎・腰椎には脊髄や神経根という神経があり、これらの神経は手足につながっているのですが、脊髄や神経根が損傷したり圧迫されたりすることで手足の神経に異常が生じるのです。

また、頭痛めまい耳鳴りといった症状を覚える方もいます。特に天気が悪いときなど、気圧の変化が影響して症状が強くなる場合もあります。

首や腰の怪我の治療

交通事故で首や腰の怪我を受けたときは、他の怪我のときと同様、治療を受けなければなりません。この項では治療について注意すべきことをご説明します。

受けるべき治療

治療するときの通院先は基本的に病院です。診療科は整形外科で、飲み薬や貼り薬などの投薬治療のほか、温熱治療や電気治療などの物理療法、運動やストレッチなどの運動療法(リハビリ)などを受けることが多いでしょう。

整骨院に通いたい方もいらっしゃるかもしれませんが、整骨院で受ける施術は、(少なくとも交通事故における法的処理としては)治療の一環として補助的に用いられるべきものとされています。
整骨院への通院を行う場合は、整骨院だけに通院するのではなく必ず病院にも定期的に通院するようにしてください。また、整骨院に通院することについて事前に医師の了解を得ておいたほうがよいでしょう。

整骨院への通院については次の記事で詳しく説明しています。整骨院への通院を考えている方は確認しておきましょう。

MRI検査を早期に受けておくことがおすすめ

治療の一環として、病院でMRI検査を早期に受けておくことをおすすめします。MRI検査機器がない病院であっても、検査機器がある病院を紹介してもらいMRI検査だけ受けに行くことが可能です。

MRI検査は椎間板や神経の異常を見つけることができる画像検査であり、適切な補償を受けるために重要な資料になります。

医師にもよりますが、MRI検査は患者からの申し出がない限り交通事故直後に行うことは少なく、事故から2~3か月経過した後や症状固定時に行うことが多いようです。
しかし、事故直後のMRI検査結果を用いて経時的な変化を明らかにし、症状や病変の一貫性を証明しなければならない場合もあり得ますから、できれば事故直後治療終了時2時点でMRI検査をそれぞれ受けておくのが最も望ましい対応といえます。

なお、エックス線検査(レントゲン検査)は、患者から申し出なくても受診初期の段階で行われることが多いのですが、エックス線検査では骨の異常の有無は分かっても、椎間板や神経の異常を見つけることはできません。

そのため、首や腰の怪我で治療を受ける場合、医師にお願いして早期にMRI検査を受けておくことをおすすめします。医師へのお願いの仕方に自信がない方は、「何か異常が隠れているのではないかと心配なので念のためMRI検査を受けたい。」と説明するのがよいでしょう。

病院へは定期的に通院すべき

病院には定期的に通院しましょう。定期的な通院が大切な理由は2つあります。

因果関係に疑いが出ないようにするため

理由の1つ目は、事故と怪我の因果関係に疑いが出ないようにするためです。損害賠償を受けられるのは事故によって生じた怪我であることが必要ですが、通院の間隔が空くとその間の怪我の状況が分からなくなります。

そうすると、「もしかしたら別の原因で同じ部位に怪我をして症状が長引いているのかもしれない」というように、本当に事故の怪我が続いているのかについて疑念が生まれてしまい、損害賠償を請求できなくなるおそれがあるのです。

この観点からは、最低でも1か月に1回は通院したほうがよいでしょう

後遺障害の等級認定の審査に備えるため

もう1つの理由は、後遺障害の等級認定の審査に備えるためです。首や腰の怪我の場合、被害者が痛みなどの症状を訴えていても、画像検査などで医学的な裏付けが明確には得られないこともあります。

このようなケースにおける後遺障害等級の認定審査では、通院回数も考慮要素となることがあります。「痛みなどの症状があり体がつらいのであれば熱心に通院して治療を受けるだろう。逆に通院回数が少ないのであれば症状があるとは言うが大したことはないのだろう。」という捉え方があり得るからです。

この観点からは、医師の指示にもよりますが週に3~4回程度通院することが望ましいといえます。

治療中は後遺障害が残るかどうかは分かりませんが、後遺障害が残った場合に備えておくことは大事です。もちろん、後遺障害が残らないに越したことはないので、熱心に通院して治療を受けることは後遺障害が残らないようにすることにもつながります

首や腰の怪我で受けられる補償

交通事故で受けた首や腰の怪我に対しては、次のような補償を受けることができます。これら以外にも、通院交通費など交通事故の被害を受けたために生じた費用については補償の対象になります。

治療費

病院の診療費や処方薬の費用などが該当します。また、治療に必要である場合には整骨院での施術費用も治療費に含まれることになります。

加害者側に任意保険会社がついている場合、加害者側の任意保険会社が立替払いをしてくれることも多いです(「一括払い」といいます。)。

休業損害

怪我のために休業しなければならない場合や、通院するために遅刻早退をした場合に、得られたはずの収入の補償を受けることができます。

欠勤した場合だけでなく有給休暇を使った場合も補償されます。

通院慰謝料

怪我をして通院しなければならなかったことで受けた精神的苦痛に対する慰謝料です。

大きく分けて自賠責基準、任意保険基準、裁判所基準(弁護士基準)の3つの計算基準がありますが、いずれも通院日数や通院期間が多くなればなるほど高額になります

通院慰謝料はどうやって決まるのかは次の記事で詳しく解説しています。

後遺障害逸失利益

後遺障害が残ってしまうと働きにくくなってしまい、収入が減少してしまう可能性があります。このことを「労働能力を喪失する」と表現します。

後遺障害逸失利益は、後遺障害により労働能力が喪失したことで失われる収入や利益のことです。後遺障害逸失利益も交通事故によって生じた損害ですから、補償の対象となります。

但し、後遺障害逸失利益は将来発生する損害なので予測するしかありません。そのため画一的な基準で計算することとされており、交通事故の前年の収入を基礎として、後遺障害等級ごとに決められた割合(労働能力喪失率)の損失が生じるものと考えて計算します。

後遺障害慰謝料

後遺障害が残ってしまったことにより、生活上の不便を強いられたり症状に苦しめられたりすることになり、精神的苦痛が発生します。
そのため、後遺障害が生じたときは通院慰謝料とは別に後遺障害が残ったことについての慰謝料を請求することができます

後遺障害慰謝料も通院慰謝料と同様、自賠責基準、任意保険基準、裁判所基準(弁護士基準)の3つの基準があり、いずれも認定された後遺障害等級が重いほど金額も大きくなります。

首や腰の怪我での後遺障害

首や腰の怪我をした場合、痛みや手足のしびれなどの症状が後遺障害として残存する可能性があります。

これらの症状が残存した場合、認められる可能性がある後遺障害等級は次の2つです。

認められる可能性がある後遺障害等級
  • 12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」
  • 14級9号「局部に神経症状を残すもの」

どのような場合に認められるか、補償金額はどの程度かをそれぞれ説明します。

12級13号の場合

認定基準

12級13号は、「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当する場合とされ、実務的には画像検査所見などの他覚的所見により医学的に証明できる場合のみ認定されます。

そのため、MRI画像等により神経根の圧迫所見が認められ、圧迫されている神経根に対応した部位(神経の支配領域)の知覚や反射に異常があるとの神経学的検査所見が認められるケースでは12級13号が認定される可能性があります。

ただし、一般的な傾向として、むち打ち症での首や腰の怪我で12級13号が認定されるケースは非常に稀です。
むち打ち症での首や腰の怪我では、検査画像などによる他覚的所見が得られないケースや、異常がある旨の画像検査所見があっても異常がある神経の支配領域に神経学的検査による異常所見が認められないケースなども多く、このような場合には12級13号が認定される可能性は極めて低いからです。

補償金額

12級13号が認定された場合、請求できる後遺障害逸失利益と後遺障害慰謝料の目安は次のとおりです。

後遺障害逸失利益

労働能力喪失率は14%とされており、むち打ち症での12級13号の場合には労働能力が喪失する期間を10年程度として取り扱われることが多いです。
そのため、例えば年収400万円の方の後遺障害逸失利益は約477万円が目安の金額となります。

後遺障害慰謝料

弁護士基準では290万円が基準となる金額であるとされています。

14級9号の場合

認定基準

14級9号は、「局部に神経症状を残すもの」に該当する場合に認定されます。実務的には、画像検査所見などの他覚的所見から証明することはできないが受傷時の状況や症状の推移、治療経過などから医学的に説明可能であって、詐病(仮病)や症状を誇張するものではないと医学的に推定できる場合であると考えられています。

明確な基準とされているわけではありませんが、実務上、認定にあたっては次のような事項が重視される傾向にあるようです。

画像検査所見、神経学的検査所見

画像検査所見神経学的検査所見により異常が認められることは極めて重要な事実です。症状があることが他覚的に判断しやすくなるからです。
 
画像検査所見や神経学的検査所見がなくとも14級9号が認定されるケースもありますが、これらの所見があるケースと比べると認定される可能性は低くなります。

受傷の状況

受傷の状況に関する事実として、事故によりどの程度の衝撃を受けたか」は重要視されています。衝撃が強ければ強いほど大きな怪我を負う可能性が高く、治りきらない可能性も高いと考えられるからです。
 
被害者が徒歩や自転車、バイクなどで加害車両が直接被害者に衝突した場合や、被害車両の損傷の程度が大きい場合などには衝撃が大きかったものと考えられ、後遺障害が認定される可能性は高くなるといえるでしょう。

通院回数

痛みやしびれなどの神経症状は目に見えず、外部から有無や程度を判断することが困難です。そこで、痛みやしびれなどの神経症状の有無や程度を測るために通院回数に着目することがあります
 
痛みやしびれなどの症状が続いているのであれば熱心に通院し治療を受けるはずであると考えられるため、通院回数が一定程度あれば後遺障害が認定されやすいといえます。
逆に、通院回数が少なければ、痛みやしびれといった症状は誇張して言っているだけではないかとの疑いを持たれ、後遺障害の認定には不利に働きます。
 
明確な基準があるわけではありませんが、半年間に100回程度(週にすれば週3~4回程度)通院していると後遺障害が認定されやすくなるようです。

症状の連続性・一貫性

神経症状で後遺障害が認められる場合には、症状の連続性・一貫性が必要です。
交通事故から数か月後に新たに症状が生じたり、症状が出たり出なかったりを繰り返しているといった場合には、症状に連続性・一貫性がないため後遺障害が認定されることはありません。

補償金額

14級9号が認定された場合、請求できる後遺障害逸失利益と後遺障害慰謝料の目安は次のとおりです。

後遺障害逸失利益

労働能力喪失率は5%とされており、むち打ち症での12級13号の場合には労働能力が喪失する期間を5年程度として取り扱われることが多いです。
そのため、例えば年収400万円の方の後遺障害逸失利益は約91万円が目安の金額となります。

後遺障害慰謝料

弁護士基準では110万円が基準となる金額とされています。

まとめ

この記事では、交通事故で一番多い首・腰の怪我(むち打ち症)の補償について横断的に解説しました。

首・腰の怪我(むち打ち症)を受けた方からご相談いただくことは多いですが、症状の程度や内容は様々で、完治される方もいれば長引く症状に苦しむ方もいらっしゃいます。仕事に支障をきたし、退職せざるを得なかった方もいました。

交通事故の被害を受けると多かれ少なかれ生活に影響を及ぼすものですから、適切な補償を受ける必要があります。そのためには弁護士に相談、依頼することは有効な手段です。

くずは凛誠法律事務所では、交通事故のご相談を随時お受けしております。初回相談料は無料(又は弁護士費用特約により自己負担なし)で対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

くずは凛誠法律事務所 代表弁護士 米田光晴
大阪弁護士会所属。大阪市、神戸市の法律事務所で約5年間、勤務弁護士として多数の案件を経験。2022年4月より大阪府枚方市で「くずは凛誠法律事務所」を開設し、代表弁護士として交通事故、離婚、刑事事件など幅広く事件対応を行っている。

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