離婚したとき、氏(うじ)や戸籍はどうなる? 弁護士が解説します

離婚の基礎知識

こんにちは、大阪市枚方市にある「くずは凛誠法律事務所」です。

夫婦が婚姻すると、どちらか一方の氏(うじ)を称することになり、戸籍も同一になります。

では、離婚したときには氏や戸籍はどうなるのでしょうか。また、子どもの氏や戸籍もどうなるのかも気になるところだと思います。氏や戸籍が日常生活に及ぼす影響は小さくありませんので、離婚する場合には問題が起きないように確認しておいたほうがよいでしょう。

この記事では、離婚したときに氏や戸籍がどうなるのかを弁護士が解説します。

氏は姓や名字(苗字)とも呼ばれますが、いずれも現代的な意味は同じです。法律上は「氏」が使用されていますのでこの記事では氏と表記しています。

この記事のポイント

  • 離婚するときの届出・手続については協議離婚の場合と調停離婚・裁判離婚の場合とで必要書類などが異なる
  • 離婚した場合、婚姻時に氏を変えた側は婚姻前の氏(いわゆる旧姓)に戻るのが原則だが、離婚から3か月以内に手続をすることで婚姻時の氏のままでいることができる婚氏続称)。
  • 子どもの氏や戸籍は、離婚によって自動的に変更されることはない。氏や戸籍を動かすためには子どもの氏の変更手続をする必要がある。

離婚するときの届出・手続

氏や戸籍の前提知識として、離婚の届出についてご説明します。

離婚には、協議離婚や調停離婚、裁判離婚などいくつか方法がありますが、いずれの方法であっても離婚届を市区町村役場に提出する必要があります

離婚方法により届出の方法が少し違いますので、場合に分けてご説明します。

協議離婚の場合

協議離婚の場合には、届出人の本人確認書類等以外には離婚届を提出するだけで足ります。ただし、協議離婚の場合には離婚届の用紙に夫婦双方及び証人2名の署名押印が必要です。

双方が署名押印した離婚届が用意できれば、市区町村役場に持参して提出することは夫婦の一方のみでできます
協議離婚の場合は夫と妻のどちらでもよいのですが、この記事で後に説明する離婚後の氏や戸籍に関する手続もあることを考えると婚姻時に氏を変更した側が離婚届を提出するようにしたほうが便利です。

調停離婚・裁判離婚の場合

調停離婚や裁判離婚の場合、離婚届に加えて調停調書の謄本や、確定判決の謄本及び確定証明書などの書類が必要です。離婚届への署名押印は届出人だけがすればよく、相手方や証人の署名押印は不要になっています。

調停離婚や裁判離婚の場合、届出人は原則として申立人・原告です。調停成立の日や離婚を認める判決の確定の日から10日以内に届け出る必要があります。
ただし、調停離婚の場合には、調停の際に申立人ではなく相手方が届出をすると決めることができます。婚姻時に氏を変更した側が離婚届を提出するほうが便利であるのは協議離婚と変わらないので、調停離婚の場合で相手方が氏を変更した側だったときは活用してみるのがよいでしょう。

婚姻時に氏を変更した夫又は妻の氏と戸籍

それでは氏と戸籍についてご説明していきますが、この記事では次のような「甲田さん夫婦」が離婚するケースをモデルにしてご説明することにします。

モデルケース(甲田さん夫婦)
  • 甲田太郎さんを夫、乙山花子さんを妻として婚姻した。
  • 婚姻時には妻である乙山花子さんが氏を変え、甲田花子さんとなった。
  • 夫婦の間には長男である甲田一郎さんがおり、離婚時には未成年である。
  • 離婚した後の甲田一郎さんの親権者は妻である花子さんとなった。

まずは、婚姻時に氏を変更した側、甲田さん夫婦でいえば妻である花子さんの氏と戸籍がどうなるのかをご説明します。

原則は婚姻前の氏に戻るが、届出すれば婚氏続称も可能

夫婦が離婚した場合、婚姻時に氏を変更しなかった側は離婚しても氏の変動がありません。甲田さん夫婦でいえば、夫である太郎さんは離婚後も甲田太郎さんのままです。

一方、婚姻時に氏を変更した花子さんは、離婚すると婚姻前の氏(いわゆる旧姓)である「乙山」に戻るのが原則です。

しかし、「甲田」の氏で過ごした時期が長い場合など離婚して旧姓に戻るとかえって不便なケースもあるでしょう。その場合、離婚後も「甲田」の氏を使いたい場合には、その旨の届出をすれば「甲田花子」のままでいることもできます。このことを「婚氏続称(こんしぞくしょう)」といいます。

婚氏続称をするかどうかは花子さんが決めることであり、太郎さんの同意や許可は不要です。仮に太郎さんが反対していても婚氏続称は花子さんの自由にすることができます。
また、婚氏続称したか否かで、太郎さんとの間で何らかの関係が継続するなどの違いは発生しません。

婚氏続称の届出は、離婚の日から3か月以内であれば可能です。
離婚届の提出の際に同時に行うこともできますので、甲田さん夫婦の場合には花子さんが離婚届の提出をするようにしたほうが便利です。

戸籍の変動

離婚をした場合、戸籍も変動します。「戸籍の変動」と「氏の変動」は連動しており、氏をどうするかによって戸籍の処理が変わります。

離婚に関する戸籍関係を理解するために大事なことは以下の2点です

離婚に関する戸籍関係のポイント
  • 同一戸籍に入るには同一戸籍内の全員が同じ氏でなければならないこと
  • 同一戸籍に入れるのは2世代(親・子)までとなっており、3世代(親・子・孫)が同一戸籍に入ることはできないこと

まず、婚姻時に氏を変更しなかった側、甲田さん夫婦でいえば太郎さんは現在の戸籍にとどまることになり、戸籍は変動しません。

一方、婚姻時に氏を変更した側である花子さんは、原則として婚姻前の戸籍に戻ることになります。例えば、婚姻前に両親の戸籍に入っていた場合は両親を筆頭者とする戸籍に戻ることになります。

このとき、両親が既に亡くなっているなどして婚姻前の戸籍が除籍されている場合には、戻り先の戸籍がありませんので新しい戸籍が作られる(編製される)ことになります。
婚姻前の戸籍が残っている場合でも、花子さんが希望すれば離婚時や離婚後に新戸籍編製の申し出を行うことで新しい戸籍を作ることも可能です。

また、花子さんが婚氏続称をした場合は婚姻前の戸籍とは氏が異なることになってしまうので、婚姻前の戸籍に戻ることはできず新しい戸籍を作ることになります
一旦は婚姻前の戸籍に戻った後、離婚から3か月以内に婚氏続称の届出をしたときも同様で、そのままの戸籍でいることはできず新しい戸籍が作られることになります。

以上をまとめると、次のようになります。

離婚時の戸籍のまとめ
  • 原則
    婚姻前の戸籍に戻る。
  • 婚姻前の戸籍が存在していても戻りたくない場合
    新しく新戸籍編製の申し出を行うことで新しい戸籍を作ることができる。
  • 婚姻前の戸籍が除籍されていて存在しない場合
    自動的に新しい戸籍が作られる。
  • 婚氏続称する場合
    婚姻前の戸籍には戻れないので、こちらも自動的に新しい戸籍が作られる。

子どもの氏と戸籍

では、子どもの氏と戸籍はどうなるでしょうか。
ここでも甲田さん夫婦の長男である甲田一郎さんをモデルにしてご説明します。

子どもの氏と戸籍を変更するには別途手続が必要

夫婦が離婚しても、子どもの氏や戸籍は自動的に変更されることはありません
甲田さん夫婦のケースでいえば、何も手続をしなければ甲田一郎さんは「甲田一郎」のままであり、戸籍も甲田太郎さんと同じ戸籍のままになります。

これは、花子さんが婚氏続称をしたかどうかや、太郎さんと花子さんのどちらが親権者になったかなどにも影響されません
一郎さんの場合は、戸籍に「【親権者が定められた日】令和〇年〇月〇日、【親権者】母」と記載されることが唯一の変化です。

しかし、親権者と子どもの氏や戸籍が違うと生活上不便があります。
そこで、子どもの氏や戸籍を変更したい場合には家庭裁判所の手続である「子の氏の変更許可申立て」を行う必要があります。

子の氏の変更許可申立ては、子どもの年齢が15歳以上であるときは子ども本人が、15歳未満であるときは親権者が法定代理人として手続を行います。申立先は家庭裁判所であり、郵送でも手続可能です。

家庭裁判所から許可が出れば、市区町村役場に入籍届を提出することで子どもの氏と戸籍が変更されることになります。
このとき、甲田さん夫婦のケースで花子さんが花子さんの両親の戸籍に戻っていた場合は、花子さんを筆頭者とする戸籍が新しく作られます。そのままだと同一戸籍に3世代が入ることになってしまうからです。

婚氏続称をしても子どもの氏の変更手続が必須であることに注意

花子さんは離婚により原則として氏が「乙山」に戻りますが、婚氏続称の届出により「甲田」のままでいることもできることは既にご説明したとおりです。

婚氏続称をすると親権者である花子さんと長男である一郎さんの氏はどちらも「甲田」になりますが、漢字や読みなどの呼称は同じ「甲田」であっても、法律上は違う氏であると扱われています。あくまでイメージですが、「甲田(A)」と「甲田(B)」というように、法律上は見えない(A)や(B)がついていると考えると分かりやすいかもしれません。

そのため、婚氏続称をしたとしても、花子さんの戸籍に一郎さんを入れるためには「子の氏の変更許可申立て」をしなければなりませんので注意しましょう。

まとめ

この記事では、離婚すると氏や戸籍はどうなるのかをご説明しました。

離婚するときに氏や戸籍にまで気を配るのは難しいかもしれませんが、しっかりと必要な手続をしないと不便を強いられることもあります
調停離婚や裁判離婚のときの離婚の届出は10日以内、婚氏続称の届出は3か月以内といった時間制限もありますので、うっかり忘れないようにしましょう。

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この記事を書いた人

くずは凛誠法律事務所 代表弁護士 米田光晴
大阪弁護士会所属。大阪市、神戸市の法律事務所で約5年間、勤務弁護士として多数の案件を経験。2022年4月より大阪府枚方市で「くずは凛誠法律事務所」を開設し、代表弁護士として交通事故、離婚、刑事事件など幅広く事件対応を行っている。

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