子どもの親権と監護権を分けるのは問題ある? 弁護士が解説します

親権・面会交流

こんにちは、大阪府枚方市にある「くずは凛誠法律事務所」です。

子どもがいる夫婦が離婚する場合、どちらが親権者になるかは対立が激しくなりやすい事柄の一つです。親権の話し合いがつかないとき、妥協案として「親権と監護権を分ける」ことを考える夫婦もいるかもしれません。

しかし、妥協の方法として親権と監護権を分けることはおすすめできません

この記事では親権と監護権を分けることについてご説明し、分けることに問題はないのか、どのような場合に分けることがあり得るのかを弁護士が解説します。

この記事のポイント

  • 親権の中身には大きく分けて「財産管理権」と「身上監護権」がある。
  • 監護権は、親権から「身上監護権」のみを切り出した権利義務をいい、子どもは通常、監護権者とともに生活することになる
  • 「親権争い」で離婚できない場合に親権と監護権を分けることが妥協の手段になると言われることもあるが、弁護士としては無視できないデメリットがあるためおすすめできない
  • 親権と監護権を分ける場合でも、分けることの意味デメリットをしっかりと理解し、分けたことを書面にしておくことは大切。

親権を構成している「財産管理権」と「身上監護権」

親権監護権のうち、まずは親権について確認しておきましょう。

親権とは、未成年の子どもの住む場所を決めたり教育をしたり、財産を管理したりする権利や義務のことをいいます。
親権はさまざまな権利義務が集まったものですが、大きく分けると「財産管理権」と「身上監護権」の2つの内容が含まれるとされています。

財産管理権

財産管理権は、子どもの財産を管理し、子どもの財産に関して契約などの法律行為を代わりに行う権利義務です(民法第824条)。

未成年の子どもであっても、親族から贈与を受けるなどして一定の財産を持つことがあります。
しかし、一般に未成年の子どもは財産を管理する能力が十分ではないので、法律では親権者が代わりに管理することとされています。

財産の管理には、単に保管する行為だけではなく、利用したり処分したりする行為も含みます。例えば、必要に応じて子どもの財産を売却して現金化することも財産の管理に含まれます。
財産を売却するには売却先との間で契約を締結しなければなりませんが、未成年の子どもは単独で契約することができません(民法5条)。そのため、親権者から同意を得るか、親権者が子どもを代理して契約することになります。
このような同意権代理権も財産管理権の内容のひとつになっています。

財産管理権が必要になる場面の例
  • 子ども名義の定期預金を取り崩すとき。
  • 子どもが所有する不動産を活用するために誰かに賃貸したり売却したりするとき。
  • 子どもが交通事故に遭って、保険会社と示談したり弁護士に依頼したりするとき。

身上監護権

身上監護権とは、子どもを監督保護し、必要な世話や教育をすることで心身ともに健全に育成する権利義務をいいます(民法820条)。

身上監護権には、次のような内容が含まれます。

居所指定権(民法第821条)

子どもがどこに住むかを決める権利です。

懲戒権(民法第822条)

子どもが悪さをしたときなどに、必要な範囲で叱ったり罰したりする権利をいいます。当然ですが、虐待が許されているわけではないことは言うまでもありません。
懲戒権は、必要な範囲で、子どもの人格や権利を尊重して行使しなければならないことを忘れないようにしましょう。

職業許可権(民法第823条)

子どもがアルバイトをしたり事業をしたりすることを許可する権利です。

親権の中に「身上監護権」が含まれているので、離婚した場合には、通常は親権を持つ側の親が子どもと一緒に暮らすことになるのです。

そのため、離婚の際に親権が問題となった場合は「身上監護権」が意識されていることのほうが多いでしょう。

身上監護権が必要になる場面の例
  • 子どもがどこで誰と一緒に生活するのかを決めるとき(通常は身上監護権を持つ親権者とともに生活することになる。)
  • 子どもがアルバイトをしたいと言ったとき。
  • 子どもの教育に関して、どの学校に通うか、どのような習い事をさせるかを決めるとき。

監護権とは何か

監護権とは、親権の中から身上監護権のみを切り出したものです。

離婚後は親権者を必ず決めなければなりませんが、このとき、親権者とは別に監護権者を決めることができます。監護権者は決めなければならないわけではないので、親権者だけを決めて監護権者は定めないことはできますが、逆に監護権者だけを決めて親権者を決めないということはできません

監護権者を決めたらどうなる?

親権者とは別に監護権者を定めた場合には、監護権(身上監護権)それ以外の親権(主に財産管理権)をそれぞれ分けて持つことになります。監護権者を別に定めなかったときは、通常どおり親権者が身上監護権も行使します。

そのため、監護権者を別に決めたときは、子どもは通常は監護権者とともに暮らすことになります。

例えば、離婚後は親権を父親が、監護権を母親が持つケースが考えられますが、このケースでは子どもは母親と生活することになるでしょう。

監護権者の決め方

監護権者は、親権者を決める場合と同じく、夫婦間での協議で決めることができます。夫婦で話し合い、双方が納得すれば一方を親権者に、もう一方を監護権者にすることが可能です。

また、協議で決まらない場合には、やはり親権の場合と同様に、調停審判訴訟などの裁判所の手続を利用して決定することになります。

「親権争い」で監護権は活用できるのか?

親権と監護権を分けることについて、「親権争いで妥協を図るために活用する」ことがあり得ると言われることがあります。この点について説明しておきます。

親権争いでの活用

まず、親権争いでの活用とはどういうことかを説明しましょう。

離婚をするとき、親権者は絶対に決めなければなりません。そのため、夫婦間で親権争いが生じている場合、親権者を決められないことで離婚もできないことになります。

このような場合に、一方を親権者、もう一方を監護権者にして双方が子どもに対する一定の権利義務を持つことにし、いわば「間を取る」ことで早期に離婚トラブルを解決する方法として親権者と監護権者を分けることがあり得る、と言われます。

親権争いが生じているときは感情的な対立が深刻化しているケースもあり、子どもと一緒に暮らせなくても「親権」があれば子どもとのつながりを持てると感じて妥協しやすくなることもあると言われます

親権と監護権を分けたときのデメリット

ただし、以上のような妥協策としての活用については次のようなデメリットもあり、弁護士としてはおすすめしにくいものだと考えています。

離婚後も緊密な連絡をする必要があり得る

1つ目のデメリットは、離婚後も緊密な連絡をする必要があり得ることです。

実際に子どもの世話をして一緒に生活する監護者のほかに親権者がいるということは、必要なときには書類を書いてもらったり手続きをしてもらったりしなければならず、そのためには親権者に連絡を取り説明や依頼をしなければならないということです。

この点がそれほど問題にはならないケースもあるかもしれませんが、夫婦関係が上手くいかなかったからこそ離婚になることが多いことを考えると、楽観視できるケースばかりではないでしょう。

もちろん、離婚したからといって子どもにとっては両親である以上、連絡を取らなければならないこともあります。とはいえ、親権と監護権を分けていない場合であれば面会交流や養育費に関する連絡をする程度ですし、面会交流も養育費も一度しっかりとした取り決めをしてしまえば事務的な連絡だけで済むことが多いはずです。

しかし、親権と監護権を分けた場合、そうでない場合と比べて緊密な連絡や具体的な話し合いをしなければならないことが多くなり、せっかく離婚しても苦痛が続いてしまうケースもあり得るといえます。

父母間で対立が起きることがある

2つ目のデメリットは、父母間で対立が起きることがあることです。

例えば、習い事などで子どものためにまとまったお金が必要になり、子ども名義の定期預金を取り崩す必要が出てきたケースを考えてみましょう。

監護権者には子どもの財産管理権がありません。そのため、親権と監護権が分かれている場合、定期預金を取り崩す手続について親権者と連絡を取り、協力を得ることになります。
このとき、監護権者は定期預金のお金を使うことが子どものために必要だと考えているのに対し、親権者が子どもの定期預金の使い道に反対する事態になった場合、父母の間で意見が対立しトラブルになるおそれがあります。

その他にも、子どもが交通事故に遭い保険会社と示談をするなど法的な対応をする場合や、再婚して再婚相手と子どもが養子縁組をする場合など、親権者の同意や協力が必要な場面は少なくありません。

親権と監護権が分かれていると、各場面で親権者と監護権者の対立が起こる可能性があり、最終的には子どもの利益が損なわれてしまうおそれがあるといえます。

裁判所でも原則として認められない取扱い

実は裁判所でも、親権と監護権を分けることは例外的な取扱いであると位置づけられており、原則として認められていません。少なくとも、審判や訴訟などの裁判所が強制的な判断を下す手続きの場合に認められるのは非常に限られたケースのみとなっています。

裁判所が最も重視しているのは子どもの福祉(利益、幸せ)ですが、その裁判所が親権と監護権を分けることについて非常に慎重な立場を取っているのは、親権と監護権を分けることが子どもにとってプラスになるとは判断されていないことを示しているといえるでしょう。

もちろん、親権と監護権を分けることが子どもの利益につながる事情がある場合には裁判所が認める可能性もあります。

例えば、子どもの日常的な世話や監護は母が担当したほうがよいが、母には浪費癖があって子どもの財産管理に問題があるようなケースでは父を親権者、母を監護権者とすることにメリットがあります。
また、母が子どもを育てることになったものの、子どもが多額ないし特殊な財産(不動産や知的財産権等)を所有しておりその管理や運用は父が担当したほうがよいケースも、親権と監護権を分ける事情になり得ます。

しかし、これらの例からも分かるように、親権と監護権を分けることが子どものためになるケースは非常に限定的です。

それでも親権と監護権を分けるときに気をつけたいこと

親権と監護権を分けることにはデメリットがあり、弁護士としてはおすすめしがたいところですが、それでも早期に離婚するためなどの理由で親権と監護権を分ける場合もあるかもしれません。

そのような場合に気をつけるべきことをご説明いたします。

親権と監護権について父母双方がしっかりと理解する

大前提のような話ですが、父母ともに親権と監護権についてしっかりと理解することが大切です。

親権と監護権がそれぞれどのような権利義務か、分けた場合にどうなるか、何をしなければならないか、デメリットはないかなど、知識を持ったうえで親権と監護権を分ける決断をしてほしいと思います。

これらの理解なしに親権と監護権を分けても、結局何も解決しない可能性もありますし、かえって子どもが不幸になるおそれもあるからです。

法的な視点で「親権争い」をする

次に、法的な視点をもって「親権争い」をすることを検討してください。

前記のとおり、親権と監護権を分けることは決して望ましい対応ではありません。そのため、親権とは何なのか、親権者を決めるときに考えるべきことは何なのかを法的な考え方に則って議論し、円満に親権者を決めることができないかについてできるだけ努力してほしいと思います。

また、子どもとのつながりを保つ手段を求めているのであれば親権ではなく面会交流を拡充したほうがよほど良いですし、子どものためにもなるといえます。そういった方向から話し合ってみるのも有意義でしょう。

親権についての考え方や親権者の決め方については次の記事で詳しく解説していますので、お悩みの方はぜひ活用してください。

親権と監護権を分けたことを書面化する

親権と監護権を分けたことは、実は協議離婚の場合には公的な書類には残りません。離婚届に監護権者を書く欄はありませんし、戸籍にも記録されません。

そのため、口約束のままにしておくと、親権者から後日「監護権者を定めたことはない。子どもを引き渡せ。」と言われてトラブルになるおそれもあります。

このようなトラブルを防ぐために、親権と監護権を分けたのであればその旨を記載した合意書などの書面を取り交わしておくことをおすすめします

まとめ

この記事では、親権と監護権を分けることやおすすめできない理由、それでも親権と監護権を分けるときに気をつけるべきことなどを解説しました。

親権と監護権を分けることは安易に行うとトラブルの原因になり、最終的に子どもが不利益を受けることにもなりかねません。親権も監護権も子どものための制度ですから、離婚にあたっては子どものためを考えて決めたいものです。

親権や監護権について不安があったり協議が難航したりしているときは弁護士に相談していただくのがよいでしょう。

くずは凛誠法律事務所では、親権や監護権を含む離婚相談を随時お受けしています。初回相談は60分無料ですので、ぜひお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

くずは凛誠法律事務所 代表弁護士 米田光晴
大阪弁護士会所属。大阪市、神戸市の法律事務所で約5年間、勤務弁護士として多数の案件を経験。2022年4月より大阪府枚方市で「くずは凛誠法律事務所」を開設し、代表弁護士として交通事故、離婚、刑事事件など幅広く事件対応を行っている。

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